社会全体で子どもを支えるシステムをつくる⑤
ひきこもり「問題」は家族から離れて社会保障の枠組みで考えましょう
これらの価値を実現するために努力しなくてはならない責務を負っているのは社会の構成員一人一人です。つまり、わたしたち。親や家族ではなく、ましてや本人でもありません。子どもを養い育てる責務は先ず親にあります。しかし、子どもが成人に達した後は、上に掲げた人権の趣旨に照らして、親としては子どもや社会に対してもう社会的道義的責任を取らなくてもいいのではないかと思います。つまり、社会保障の枠組みの中でひきこもりの「問題」を考えるようにしたらどうでしょうか。
以上の問題点について、現在の日本の社会福祉サービス、とくに高齢者福祉と障害者福祉に多くの示唆を見出すことができます。国が定めた社会福祉の理念は1951年に制定された「社会福祉事業法」や2000年に改定された「社会福祉法」に謳われています。キーワードは「個人の尊厳」、「心身の健やかな育成」、「自立」、「社会参加」。これらは上にご紹介した人権条約や憲法の理念と共通しています。現在の社会福祉の諸施策はこのような約束事の積み重ねの上に立っています。
とはいえ、介護は社会全体で担うというのが大前提なのですが、いまなお高齢者介護や障害者介護の多くを家族が担わざるを得ないというのが現実。社会的ひきこもりの人々やひきこもりの人々を支える家族は、制度以前の問題でいわば福祉サービスの谷間にある人々です。人権条約や憲法の理念からいって、これらの人々にも同じようにこうした理念が実現されるように、社会からの適切な援護が必要であることにかわりはありません。
現在実施されている高齢者や障害者に対する福祉サービスの内容とサービスを受けるに際しての手続きは、制度や制度の適用上の不備は不備として、まだ改善するべき点が多くあるものの、ひきこもりの人々とその家族を支えるための方法としてたいへん参考になります。ひきこもり「問題」の解決として有効なツールがいくつも散見されます。ほんの一例を挙げれば、経済的面での支援策として年金、保健、生活保護の適用、生活面ではヘルパーの利用、グループホーム、デイ・ナイトケア、一時保護、親へのレスパイト・サービス、就労面では、能力・段階に応じた就労支援策、ジョブコーチ、スキルアップ事業、行政の対応として横断的な連携、一元的で総合的な支援諸施策など枚挙にいとまがない。
ひきこもるには理由があります。必要があって一旦社会から身を引きます。しかし、必要以上にひきこもりを長引かせていい理由はありません。ひきこもる人々に社会参加してもらうには、社会参加しやすい環境を家庭の内と外とで作ることです。問題を単純化して申し上げれば、社会参加を妨げる家庭内の要因とは、家庭内にひきこもれる環境(家族による保護)があるということ。社会参加を妨げる家庭外の要因とは、ひきこもる人々が社会復帰(リハビリテーション)するための足がかりが社会に皆無であるということ。上述したような経済面、生活面、就労面における配慮がまったくありません。これはひきこもる人々に対して、ひきこもり生活に入ったのは何らかの理由があったにせよ、社会復帰については自己責任でお願いしますと言うようなもので、これを悪く解釈すれば、このような無策、不作為はひきこもる人々に対して社会に出てくるなと言うに等しい。
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